2004年11月03日

社説:介護保険見直し 孫から保険料を取るのか

毎日新聞 2004年11月3日 東京朝刊 
 介護保険の見直しが大詰めを迎えているが、賛成と反対の意見の隔たりが依然として大きく、収れんしそうにない。同じことが年金論議でもあった。政府・与党は抜本改革を避け、小手先のつじつま合わせで乗り切ろうとしたが、国民から厳しい批判を浴び、年金不信を一層深くしてしまった。給付費の膨張で財政がもたない介護保険の見直しは当然行うべきだが、年金改革の轍(てつ)を踏むべきではない。

 争点となっている見直しのポイントは二つある。ひとつは介護保険の被保険者を現在の40歳から20歳に引き下げて保険料を徴収し制度の支え手を増やすことだ。これにより介護保険は「中高年保険」から、国民皆保険へと姿を変える。二つ目は身体、知的障害者を対象に03年度から始まった支援費制度を介護保険と統合する案である。保険料を20歳からもらう「見返り」として、若い障害者が介護保険を使えるようにする。

 介護、支援費制度には共通点がある。共に厳しい財政事情を抱えているのだ。介護の給付費は制度発足の00年度は3・2兆円だったが、今年度予算では5・5兆円にも膨らみ、25年度には19兆円にもなる見通しだ。支援費制度も障害者の利用増を見誤り、03年度は128億円、今年度も250億円の予算不足が見込まれている。

 財政が苦しい両制度を統合する狙いは保険料の徴収範囲を20歳以上まで広げ、安定化を図ろうというものだ。統合により破たんは一時的に回避できるかもしれないが、抜本改革にはつながらない。

 両制度の統合には多くの問題がある。国民のコンセンサスもできていない。これまで通り障害者福祉を税金で行うのか、保険料を徴収して社会保険方式で実施するのか。肝心な点で障害者団体、自治体、経済界、労組などの意見が割れている。

 20、30代は新たな介護保険料の負担を受け入れないのではないか。現行では40歳以上の保険料で高齢者の介護を支えているが、支え手を孫の世代にまで広げるには若者の合意が欠かせない。しかし、社会保障審議会などで若い世代が発言する場さえない。無理強いすれば、介護保険料を払わない若者が増え、第二の国民年金になってしまうという懸念がある。

 支援費制度は始まってまだ2年目だ。予算不足が生じたからといって、すぐに次の制度に乗り換えるというのはいかにも安易である。いますべきことは問題点をすべて明らかにし、対応策を考え実行することだ。そうでなければ、介護と統合しても同じ過ちを繰り返すだけだ。

 厚生労働省は年内にも介護と障害者福祉の統合をまとめたい考えだが、急ぐことはない。意見対立があるのに見切り発車すれば禍根を残すことになろう。それは年金国会で「学習」したはずではないか。年金論議以降、社会保障の給付と負担のあり方について国民は敏感になっている。拙速に進め、信頼をなくしては取り返しがつかないことになる。