2004年01月28日

「補助金を考え与党に」 知的障害者施設入所者へ、投票の干渉が相次ぐ

「補助金を考え与党に」 知的障害者施設入所者へ、投票の干渉が相次ぐ--初公判

 ◇和歌山で初公判
 知的障害者更生施設の幹部らが入所者に対し、自民党候補者などに投票させる公職選挙法違反(投票干渉)事件が、最近3回の衆院選で続いた。27日には逮捕された和歌山市の施設幹部の初公判が和歌山地裁であった。事件の背景には何があるのか。事件の当事者の声や専門家の意見を聞いた。
 和歌山地裁の初公判で、知的障害者更生施設幹部は施設への補助金確保を目当てに入所者に与党候補へ投票させ、投票干渉は以前から組織的に行われていたと、検察側が冒頭陳述で指摘した。
 この幹部は和歌山市の「つわぶき会綜成苑(そうせいえん)」更生部長、伊藤明被告(64)。昨年11月の衆院選の不在者投票の際、入所者9人に自民党候補者名などを書いたメモを渡し、投票に干渉したとされる。
 検察側冒頭陳述によると伊藤被告は00年に更生部長として就職し、前任者から「入所者の不在者投票」について引き継ぎを受けた。そこには「(苑の)設立母体『和歌山市障害児者父母の会』が推薦する候補に投票させること。説明しただけでは分からない者にはメモを渡して投票させること」とあり、投票干渉は継続的に行われてきたという。
 法廷で伊藤被告は起訴事実を認め、「重大な誤りだった」と謝罪した。検察側は禁固8月を求刑し、弁護側は最終弁論で「苑に対する補助金が有利に働けばと考えたうえでの行為だが、深く反省している」と述べた。判決は2月10日。【坂口雄亮】
 ◇古い体質に問題--峰島厚・立命館大教授(障害者福祉)の話
 投票干渉が相次いでいる背景の一つに施設の持つ古い体質がある。事件には職員も関与しているが、幹部から受けた指示に疑問を持ちながら拒めない。入所更生施設は以前から同族経営のもとで閉鎖的な施設が多いと言われ、自由に意見を言える職員会議もなく、上の人の言うことを下が聞く体質がある。再発防止マニュアルなども大事だが、同時に施設をどう民主的に運営していくかが重要だ。外部への施設公開や職員の他施設への派遣・研修などで、民主的にするよう築いていくしかない。
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 ◇徳島で有罪の元施設長が証言--選管「おたくらの支持者名書けば」
 00年6月の衆院選での事件で禁固10月、執行猶予5年の有罪判決を受け、現在は寺の住職を務める徳島県の元施設長(59)が取材に応じ、胸中を語った。「いい機会なので問題提起して下さい。私が罪を犯したのは謝罪しないといけないが、毎回どこかの施設で(投票干渉が)ある」。79年6月に知的障害者更生施設長に就任し、翌80年の衆参同日選から00年に逮捕されるまで20年間、投票干渉を続けていた。
 きっかけは、就任4カ月後の衆院選。投票所へ連れて行った入所者が候補者名を書かずに走り回り、投票所にいた人から「あんたら選挙妨害にきとんのか」と注意されたという。町の選挙管理委員会に相談したところ、「『投票権があるんだから投票させなあかん。この子たちは誰かの指示によって投票するんだから、おたくらの支持者がおれば名前をメモ用紙に書いて渡して、不在者投票にしませんか』と言われた」と振り返る。
 町選管は「そういう話は聞いたことはない。20年も前だし、分からない」と言うが、元施設長は「投票干渉は全然頭になく」、候補者名を書いたメモを入所者一人一人に渡し、マイクロバスで町役場の不在者投票所までピストン輸送した。入所者は選管でメモを渡し、町職員が代筆していた。メモの投票先は自民党と同党候補者。「与党を支持しておかんと補助金で運営している我々施設はそっぽを向かれる」と元施設長。施設建て替えの補助金獲得の際、この自民党議員に旧厚生省へ口添えしてもらったこともあるという。「選挙の度に『またか』とおっくうだったが、行政も『どうこうしろ』とはっきり言えない難しさがある。彼らの選挙権を取り上げると人権問題。みんなで知恵を出してもらいたい」と元施設長は語った。【山本浩資】
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 ◇主な投票干渉事件の逮捕者
 (年齢、肩書は当時)
 ◆03年衆院選
<警察>  <容疑者>
和歌山県警 知的障害者更生施設部長(64)
      同職業支援係長(32)
      同職業支援員(27)
      同生活支援副主任(50)
<内容> 入所者9人を不在者投票所に連れて行き自民党などと書いたメモを渡して投票を指示
三重県警  知的障害者更生施設作業指導員(52)
 施設利用者9人を他の職員3人に不在者投票所へ引率させ、自民党などと書かれた紙を持たせた
 ◆00年衆院選
徳島県警  知的障害者更生施設長(55)
      同事務長(48)、同次長(55)
 入所者75人をマイクロバスで不在者投票所へ引率し自民党候補者名を書いたメモを渡す
 ◆96年衆院選
愛媛県警  知的障害者更生施設園長(47)
      同職員(28)
 園生24人を車で投票所に引率し、自民党候補者名を書いたメモを渡す
[毎日新聞 2004年1月28日(水)]

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